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福岡地方裁判所 昭和38年(ヨ)301号 判決

申請人

前嶌秀信

代理人

斎藤鳩彦

外八名

被申請人

三井鉱山株式会社

代理人

鎌田英次

外八名

主文

申請人が被申請人に対して雇用契約上の地位を有することを仮に定める。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実

理由〈省略〉

一被申請人が石炭の採掘、販売等を業とする株式会社で、大牟田市に三池鉱業所を設けており、申請人が被申請人会社三池鉱業所に雇用され、前示組合の組合員であること、被申請人が、昭和三八年六月一〇日、申請人に対し解雇の意思表示をし、以後申請人の会社従業員たるの地位を争うこと、被申請人会社と組合との間の労働協約一二条には、会社が組合員を解雇する場合の一として職務怠慢者、即ち無断で引き続き二〇日以上欠勤した者を規定することおよび申請人が、昭和三七年七月一六日以降右解雇の意思表示がなされるまで、坑外測量工として三池鉱業所本所鉱務部探査課測量係の職場に出勤せず会社を欠勤したことは、当事者間に争いがない。

二被申請人は、申請人の前記欠勤のうち、同年九月一日以降の欠勤が右労働協約一二条にいう連続二〇日以上の無断欠勤に該当すると主張するので、その点について判断する。

(一) さて、前記労働協約一二条は、会社が組合員である従業員を解雇する場合の一として、前示のように、職務怠慢者即ち無断で引き続き二〇日以上欠勤した者を定めているが、この場合の解雇が懲戒解雇を意味することは、同条が不都合解雇の文言を使用しているとはいえ、右と全く同一の事由を懲戒解雇事由と定めた鉱員就業規則附属の鉱員賞罰規則三章七、八条に照らして明らかである。

而して、二〇日以上連続の無断欠勤が懲戒事由とされた所以は、それが、特に無断である点、企業秩序維持の必要に基づき従業員の服務規律として会社の定めた鉱員就業規則四一条の規定、即ち所定様式による所属長への事前届出の規定に違反するは勿論、会社の業務運営に支障を来たし、ひいては企業秩序の維持に悪影響を及ぼすおそれがあることにあると考えられる。

そうすると、協約一二条にいう無断欠勤とは「事前届出のない欠勤」のことであると解すべきである。

(二) ところで、協約六四条は、組合が組合用務のため組合員を欠勤させる場合、組合において予めそのことを会社に届け出れば、即ち事前にマル組届出をすれば、該組合員は無給出勤扱い、即ちマル組扱いを受けることおよび同六八条、六九条は組合が組合員を役員として組合業務に専従させる場合、該組合員の氏名等を遅滞なく会社に通知すれば、即ち罷役扱いの通知をすれば、該組合員は会社との間に雇用関係はあるが使用関係のない罷役、即ち通常いわれる在籍専従の扱いを受ける旨規定する。

そして、右両規定が労使の間で特に締結された趣旨は、本来、組合の組合活動は自由であり(協約六〇条参照)、組合が組合活動の一環として、組合員を組合用務で欠勤させ、或いは組合業務に専従させることは自由なはずであるが、組合員は、いずれも会社に対し就労義務を負う従業員として企業に組識づけられている関係上、その欠勤は多かれ少なかれ会社の計画された業務運営に支障を及ぼすおそれがあるので、組合の組合活動が、右の如く、従業員、会社間のいわゆる個別的労働関係と関連を有する限りにおいて、欠勤がもたらす業務運営における支障をできる限り少なくするため、一方で組合用務もしくは組合業務専従による欠勤を認めるかたわら組合に事前届出の義務を負わせることにより、多少とも組合活動の自由を制限し、もつて組合活動と会社業務との調和を図つたことにあると思われる。

他方、個別的労働関係を律するものとしての鉱員就業規則四一条は、前示のように、欠勤等に関し従業員に対し、所定様式による所属長への事前届出義務を課しているが、この規定もまた、主として、企業に組織づけられている従業員の欠勤が会社業務の運営に支障を及ぼすものであるとの観点に基づき、従業員にその欠勤を予め届けさせることにより、少しでも会社業務運営の円滑化を図る趣旨で定められたものといえる。

而して、組合の届出義務を定めた協約六四条乃至六八条、六九条と従業員個人の届出義務を定めた就業規則四一条との関係であるが、後者が個別的労働関係を律するものであるのに反し、前者は、前示のように個別的労働関係とも関連を有するとはいえ、直接には組合と会社間のいわゆる集団的労働関係の処理のために適用されるものとして、労働組合法一六条にいう「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」、即ち規範的部分には属しないから、それぞれ適用の場を異にし、その点で両者は矛盾、抵触するものではなく、また内容自体前者が後者の適用を当然に排除しているものともみられない。

しかし、両者は、既述の如く、その趣旨において殆んど重複するものであるうえ、後者の従業員個人の届出義務といつたところで、必ず本人がなさねばならず、第三者が本人の依頼で本人に代つて本人のためになすことを許さないわけのものでもなく、さらに前者の組合の届出義務といつたところでその届出には、通常、組合員たる従業員本人のために本人に代つて届出をなす意思も含まれていると見るべきであるので組合が前者に準拠して事前に会社宛マル組届出乃至罷役扱いの通知をした場合、たとえそれが就業規則所定の様式に従つた所属長宛の届出でないとしても、組合用務による欠勤或いは組合業務に専従することを命ぜられた組合員たる従業員個人が、就業規則に則つて、重ねて会社宛事前届出をなさねばならない格別の必要性は考えられない。

この点、被申請人は格別の必要性を主張するもののようであるが、その主張にかかわる必要性は組合の事前届出により充足されることがらであつて、本件全資料によるもそれ以上の必要性の主張、疎明はない。

従つて、マル組扱いもしくは罷役扱いの場合、組合が協約上の事前届出義務を遵守してマル組届出もしくは罷役扱いの通知をなせば、該組合員が就業規則所定の事前届出をせずとも、右組合の届出もしくは通知が協約一二条の無断欠勤について先に判示した「事前の届出」に当たるから、該組合員は同条の無断欠勤の責を問われないというべきである。

これに反して、組合がその事前届出義務を履行せず、マル組届出もしくは罷役扱いの通知を懈怠した場合は、前記判断から明らかな如く、従業員個人の届出義務の必要性には何らの消長も来たさないから、その意味において、該組合員が欠勤について就業規則上の事前届出をしていないかぎり、一応形式的には協約一二条の無断欠勤に該当するであろう。

しかし、同条の無断欠勤により該当者を解雇するには、同条が既述の如く懲戒解雇の規定であることから、その前提として該当者に非難可能性、即ち懲戒処分しかも最も重い懲戒解雇に値するものとして、企業秩序の維持のうえで同人を企業外に排除しなければならないほどの非難可能性の存することが必要と解される。

(三) これを本件についてみるに、〈証拠〉によれば、申請人は、昭和三七年七月一三日、組合の指示に従い、組合が水俣市に派遺する水俣争議支援オルグ団の責任者として、当初同月末頃までの予定で同市に赴き、さらに同月末頃、組合から長期滞留の指示を受け、爾来、翌三八年三月五日まで同市に留まり、永田組合書記次長の指揮下で組合派遺の短期オルグの掌握、配置等の組合用務に専ら携わつていたことが疎明され、右疎明を覆すに足りる資料はない。

そして申請人が、昭和三七年九月一日以降、会社を欠勤したことは前示のとおりであるが、その間、申請人個人が、右欠勤について、会社に欠勤届その他の事前届出をしなかつたことおよび同年一一月一二日、組合が会社に対し、「部員臨時罷役取扱い依頼の件」と題する書面(いずれも成立に争いのない疎甲四号証、疎乙九号証参照)をもつて、申請人について同年九月一日以降の罷役扱いを依頼したことは当事者間に争いがない。

右に反して、同年一一月一二日以前に、組合が、申請人の同年九月一日から同年一一月一二日までの欠勤について、会社宛にマル組届出もしくは罷役扱いの通知をしたことは、本件の全資料によるもその疎明がない。

してみると、申請人の昭和三七年九月一日以降の欠勤のうち、同日から同年一一月一二日までの欠勤は、一応形式的に協約一二条の事前届出を欠く欠勤に当たるから、申請人に対する前示非難可能性の有無を検討することが必要となり、同月一三日以降の欠勤は、もし前記書面による部員臨時懈役取扱いの依頼が協約六八条、六九条所定の罷役扱いの通知に該当するとするなら、事前届出のあつた欠勤として、協約一二条の無断欠勤に当たらないこととなるから、その点の検討を要する。

(四) そこでまず判断の便宜上、後者即ち昭和三七年一一月一三日以降の欠勤に関して、書面による部員臨時罷役取扱い依頼が前記協約所定の罷役扱いの通知に該当するか否かについて検討する。

〈証拠〉によれば、申請人は、前記のように、組合の指示に従い水俣市に派遣され組合用務に従事していたのであるが、その間組合は、申請人について、同年八月六日から同月三一日までのマル組届出をしたものの、九月一日以降の欠勤については、組合事務の繁忙等のために担当者である灰原組合書記長らにおいてマル組届出を失念していたところ、同年一一月一一日、申請人の電話により、初めて同年九月一日以降の事前届出の懈怠を知るに及んで、当時、申請人が水俣市において、たまたま役員待遇を受けて組合業務に専従する実状にあつたうえ、水俣争議の長期化に伴い、同人の水俣市滞留も同様長期化することが予想されたので、これをマル組扱いとしたのでは、もともと短期間の組合用務による欠勤に対するものとして労使間に締結されたマル組扱いの制度の趣旨にも惇ると考えたことから、急拠、申請人を組合業務に専従する臨時の部員に決定し前記の書面を作成したこと、そして、右罷役扱いを受ける専従役員の範囲および罷役扱いの通知の方法について、その点協約上必ずしも明確でないとはいえ、従来労使の慣行として組合員の投票によつて定期的に選出される組合規約上の役員のほか、組合業務に専従させるため定期的或いは臨時に組合が選出、決定する組合規約上の部員もその範囲に含められ、その間何らの区別なく、組合が臨時部員を選出、決定したときは、選出決定後遅滞なく会社にその旨を書面で、しかも前記書面と同じ様式の書面で通知していたことが認められる。右疎明を覆すに足りる資料はない。

右の事実に鑑みると、臨時部員の選任の手続が組合規約どおりになされたか否かはともかく、前記書面による罷役取扱いの依頼は、申請人を臨時部員に決定したのが前示同年一一月一一日頃であつたにもかかわらず、遡つて同年九月一日からの罷役扱いを求める点、確かに被申請人も主張する如く、何らかの作為に出たことが窺われるとはいえ、少なくとも同年一一月一三日以降に関する限り、同書面による罷役取扱いの依頼は、前記協約所定の罷役扱いの通知に該当し、申請人は同日以降罷役扱いとなつたというべきである。

なお、この点につき、被申請人は、臨時部員の罷役扱いに関しては、従来から、組合が臨時部員を任命するに当たつて事前に会社の了解を得るという労使の慣行があつたが、本件罷役扱いの通知は右慣行に違反しており、また無届欠勤の非を隠蔽せんとする作為にほかならなかつたから、罷役扱いを承認していない旨主張する。

そして、〈証拠〉によれば、当時組合の一、二の支部では臨時部員を選出するに先き立ち、会社と話し合い乃至は打ち合わせを持つていたこと、右話し合いの結果組合において臨時部員の選出を取り止めた事例の存することが窺われ、このことは被申請人主張の右慣行を裏付けるかの如くである。しかし他方、〈証拠〉を綜合すると、右のような組合(支部)と会社間の話し合い乃至打ち合わせは、臨時部員が、組合員の投票によつて当然に選出される役員と異なり、組合執行部の判断にかかるものであつたから、これを選出するについては会社の業務上の都合も考慮するという意味で、労使協調の立場から適宜行われていたものにすぎないこと、組合が会社の業務上の都合を聞き臨時部員の選出を止めた事例は一回のみであること、更に被申請人会社は、本件解雇の意思表示前、申請人の欠勤について組合と折衝したさい、組合に対しマル組扱いの場合の問題とあわせて、臨時部員の選任の場合の労使の事前協議の問題を持ち出したことなどが窺われ、これらの事実は却つて、組合と会社間に臨時部員について事前に了解を得るという慣行が確立していなかつたことを推認させるものであり、被申請人主張の右慣行は甚だ疑わしいといわねばならない。なお、〈証拠〉の各書面には、いずれも「依頼の件」なる文言が使用されているが、それのみでは未だ右認定を左右することはできない。前掲各疎明のうち、以上の認定に反する部分は採用できない。

とすれば、申請人は、昭和三七年一一月一三日以降本件解雇の意思表示がなされるまで、組合の臨時部員として罷役の取扱いを受くべき地位にあつたものであり、組合から会社宛にその旨の通知もなされていたのであるから、その間の欠勤が前記懲戒解雇事由たる無断欠勤に該当しないことは明らかである。

(五) 次に、昭和三七年九月一日から同年一一月一二日までの欠勤についてであるが、これが一応形式的には協約一二条の事前届出を欠く欠勤に当たること前示のとおりであるから、それが懲戒解雇に値するものであるか、すなわち申請人に対する前示非難可能性の有無を検討する。

(イ) まず、〈証拠〉によると、申請人は、前示の如く、昭和三七年七月一三日以降、組合用務で水俣市に滞在していたが、その間、毎月一度位の割で大牟田市の自宅に帰宅し、組合本所支部にも顔を出したこともあるとはいえ、同年七月末頃、組合から長期滞留を指示されたさい、灰原組合書記長に電話でその後の欠勤についてマル組扱いの届出を依頼し、同書記長の了解の返事を得ていたこともあつて、同年一一月一〇日、妻初枝より、同年八月末頃からの欠勤について会社に届が出ていないことの電話を受けるまで、組合が右欠勤についてマル組届出をなしていると信じて疑わなかつたこと、しかして、申請人は、翌一一日、組合本所支部墨田大代副支部長に電話してその点を確かめたところ、組合は、同月一二日、前示のとおり、急拠会社宛に罷役扱いの通知を出す一方、同月一五日、申請人に対し、右墨田を通じて、同年九月一日からマル組届出等の手続がとれていず、会社と交渉中である旨返事をし、ここに申請人は組合のマル組届出の懈怠を確定的に知つたことが疎明され、右認定を覆すに足りる資料はない。

とすれば、申請人は右届出をなすべき当時、水俣市に滞留し、組合にマル組届出を依頼していたため、当然組合よりその旨の届出がなされているものと信じており、まず故意に届出をなさず欠勤したものでないということができる。

(ロ) もつとも、〈証拠〉によれば、会社は、同年八月一日、組合に対し水俣争議応援のためのマル組扱いを認めない旨通告するとともに、その頃、人事担当の職員に対して、組合から会社宛にマル組届出があつた場合は、その者の氏名を連絡することにするが、その者から欠勤届等が出なかつたときは、届出事故欠として処理するように指示したので、人事担当の職員も、それ以降、マル組扱いの対象となつた組合員に対しては、その都度、水俣行きであるならば、会社は水俣行きのためのマル組扱いは認めないことになつているから、欠勤届等を出して貰いたいと注意していたこと、そのため、従来は組合が会社宛マル組届出をした場合、該組合員は重ねて就業規則所定の欠勤届等を出すことはなかつた(その必要性のないことについてはすでに述べた)のに、その時以降は、組合から組合用務のための欠勤を命ぜられた組合員のうちで就業規則所定の欠勤届等を出す者も現われたことが窺われ、かかる状況のもとにおいては、申請人が当時水俣市に滞留していたとはいえ、組合或いはオルグに派遣された組合員を通じるなどして、会社が組合に対し水俣争議応援のためのマル組扱いは認めない旨通告しているといつた程度のことは知つていたであろうと推認され、しかも申請人は、前示の如く、毎月一回位は帰宅し、組合本所支部事務所に立ち寄つたこともあつたので、その気になれば組合のマル組届出が依頼したとおりなされているか極めて容易に調査できたのであるから、その点申請人に何ほどかの過失は否定できないといえよう。

右認定に反する申請人本人尋問の結果は証人灰原茂雄の証言に照らして採用できず、他に右認定を覆えすに足りる資料はない。

しかし、申請人の過失が右の程度にとどまるとするならば、もともと懲戒事由としての無断欠勤は、欠勤日数の長短もさることながら、届出をしないで、もしくは届出をしていないことを知つて、故意に欠勤した点に非難さるべきものがあり、或いは高度の蓋然性をもつて右届出の懈怠を知り得た場合など、いわゆる重大な過失に基づく場合これに準ずるとしても、申請人の右過失程度では未だ懲戒解雇に値する非難可能性がないというべきである。

ところが、この点について、被申請人は、マル組扱いは単に組合のマル組届出のみでは有効に成立せず、就業時間中の組合活動の場合と全く同様、右届出に対する会社の許可によつて初めて有効に成立するのであり、その意味で会社は本来マル組扱いについて裁量権を有しており、右裁量権に基づき、会社は、前示のとおり、昭和三七年八月一日、組合宛に水俣争議応援のためのマル組扱いを認めない旨通告したのであるから、右通告後の欠勤については、もともと組合のマル組届出ということは問題とならず、専ら就業規則四一条の従業員個人の届出義務が問題となり、従つて帰結するところも異つてくる旨主張するもののようである。

なるほど、協約六一条では、組合活動は原則として就業時間外に行う旨規定され、続けて六二条では、就業時間中の組合活動は組合が届け出たうえ、会社の許可を要する旨規定されるから、組合用務のための欠勤も、その長短、程度の差こそあれ、就労義務を免れる点では就業時間中の組合活動と実質は異らず、マル組扱いが認められるためには一見、組合のマル組届出だけでは足りず、会社の許可をも要するかの如くである。

しかしながら、右協約の六二、六三条と六四条とを対比してみれば、前二者はいずれも就業時間中の組合活動およびこれに対する取扱いを規定し、明らかに同一の事項を対象としていると考えられるところ、マル組扱いについての六四条についてはこれら条項との関連を直接認めさせるものがない。却つて、六三条が就業時間中の組合活動の無給を明言しているのに、六四条が組合用務による欠勤、出張の無給を改めて宣言していることからすれば、協約締結の当事者は、当日就労して会社の指揮命令下に入つた組合員が就業時間中に行う組合活動、すなわち就労の場における組合活動であつて会社業務の平常の運営に支障を生ずるおそれのあるものと、当初から就労を予定せず、会社業務の運営に直接関連のないマル組扱いの場合とを、区別して考えていたのではないかと推察される。そして、前者については、右に述べたような会社業務に対する直接の支障のおそれがあること、さらには協約六三条の「諒解事項」から窺われるように、各山の慣行によつては、就業時間中の組合活動であつても、これを有給とする取扱いもあつたようであり、これらのことが協約六二条に会社の許可を要する旨の条項となつたものと判断される。従つて、その点事情を異にするマル組扱いに右六二条から会社の許可を要するものと推論することはできない。このことは、右協約六二条のほか同六五条が同様に会社の許可を明言しているにもかかわらず、その中間に規定された右六四条のみが、単に「予め会社に届出るものとする」との文言を使用していることそれ自体からも、さらに前示の如く、会社が、本件解雇の意思表示前、申請人の欠勤に関して組合と折衝したさい、組合に対しマル組扱いの場合の事前協議の問題を持ち出した事実からも肯認できよう。また、右協約にもかかわらず、マル組扱いに事前協議もしくは会社の許可、承認を要するとの慣行が存在したことは、本件全資料によつてもだ未認めることができない。

もつとも、鉱員就業規則四四条は、会社が従業員を無給出勤扱いにする場合の一として「組合用務のため予め許可を得て欠勤又は出張したとき」を規定するから、マル組扱いの場合、従業員個人としては同規則四一条に則り事前届出をするのは勿論、その欠勤につき会社の許可を要するといえそうである。

だが、この点については、協約六四条の組合の事前届出義務と就業規則四一条の従業員個人の事前届出義務との関係について、すでに判断したところと異り、就業規則四四条の前規定は、マル組扱いに関し、無給出勤扱いを認めるにつき、許可制を採らず、届出制を採つた右協約六四条の規定と内容自体において明らかに矛盾、抵触するから、この場合、協約五条に照らしても、また労働組合法一六条の規定の趣旨に準じても、前者の規定は、それが許可を要するとする限りにおいて、効力を生じていない無効のものと解すべきである。

してみると、もともとマル組扱いについて、会社は裁量権を有しないことになり、その会社が前示のマル組扱いを認めない旨の通告をしたからといつて、組合のマル組届出が無意味となるものではない(現に、会社自身も通告後組合からマル組届出があつた場合は届出事故欠として処理するよう人事担当職員に指示し、マル組届出に少なくとも届出の意義を認めていたことは、すでに判示したとおりである)から、被申請人の前記主張は容れることができない。

因みに、〈証拠〉によれば、会社が前記マル組扱いを認めない旨の組合宛通告をなしたさい挙示した理由は、組合は他社労組の争議行動の応援という違法目的のためのストライキの手段としてマル組扱いを利用していること、しかも右マル組届出は必ずしも事前になされなかつたうえ、あまりにも多数にのぼつたので、すべてをマル組扱いとすれば、会社の業務運営に支障が生ずることの三点であつたことが一応認められる。けれども、仮に右理由として掲げられていることがすべてそのとおりであるとしても、会社は一片の通告によりマル組扱いに関する協約の効力を否定するわけにはいかない。

これらのことは、もともと組合との団体交渉により解決さるべき問題であり、その間の不都合は致し方ないというべきである。それ故、右事実は前記の判断を何ら左右するものではない。

そこで、結局、申請人の昭和三七年九月一日以降同年一一月一二日までの欠勤は、一応形式的には協約一二条にいう連続二〇日以上の無断欠勤に当たるというものの、非難可能性がない点において懲戒解雇事由たる無断欠勤に該当しないことになる。そして、他に格別の疎明もない。

三そうだとすると、申請人の本件解雇は、前記労働協約および就業規則附属賞罰規則の解釈適用を誤り、懲戒解雇該当の事由なくしてなされた無効のものというべきであり、申請人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を考え併わせると、仮処分の必要性も十分認められるので、申請人の被申請人に対する本件仮処分申請は理由ありとしてこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(権藤義臣 油田弘佑 三宮康信)

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